5月2025

5月の例会=報告

5月例会

令和7年5月18日(日)

越後人がアフリカの南スーダンで橋を作った話

建設技研インターナショナル 当会会員 梅田典夫氏

〈講演要旨〉

 2022年5月に南スーダンのナイル川に560mのFreedomBridgeが架けられた。この架橋工事は2013年8月から始まり、紛争やコロナ流行による中断を経て、ようやく完成した。2014年1月から常駐監理者として、ずっとこの工事に関わってきた。

 スーダンは、1956年にイギリスから独立した。しかし、北部のアラブ系イスラム教住民が政権を掌握し、南部の黒人系キリスト教住民は従属的な地位に置かれ、南部は経済的にも開発が遅れた地域となっていた。そのため、南部で分離独立運動が起こり、2011年7月9日に南スーダンとして独立を果たした。

 国を南北にナイル川が貫くが、橋は老朽化した仮橋が一方架かるだけで、ケニヤの港から運んだ物資を、首都ジュバや西部地域に輸送するのに支障があった。そこで日本政府は南スーダンに無償援助として近代的な鋼橋を提供し、経済発展の基礎となる流通発展に寄与するインフラ整備を行うこととしたのである。

 工事は大日本土木(株)が担当し、日本から世話方となる職人10人ほどが現地に入り、現地の作業員200人ほどを雇用して、仕事を指導しながら作業が行われた。工事は想定外に硬い岩盤への対応や河川中への橋脚建設など困難なことがあったが、日本人の技術力や現地の人々の正確な測量などによって完遂することができた。

 こうした大規模な近代的な土木工事は南スーダンでは初めてのものであり、工事を実施したこと自体を南スーダンにとって有意義なものとするために、様々な取り組みを行った。作業員に、自分の仕事が単に日々の糧を得るためのものではなく、いかに社会的意義を持っているか認識して働いてもらう。工事を進める上で必要な規律、時間、安全の厳守などを体得してもらい、日本の職人たちの下で技術と要領を学び技術移転を円滑に行う。この点、南スーダンの人々は素直で呑み込みのよい人々であった。また、現場で学んだ南スーダンの土木技術者に、この橋の工事を素材に学生へ講義してもらい、講演者、聴衆者ともに土木技術意義への理解を深めてもらい、土木専攻の学生には現場視察も重ねてもらった。現場近くの小学生には土木への興味を持ってもらい、将来の国づくりに寄与できたらと現場見学をしてもらい、あわせて橋を架けている日本という国への理解を深める活動も行った。

 つまり、FreedomBridgeの架橋は、単に構造物の無償供与というだけでなく、これから南スーダンを自立的に発展させていくために必要な技術移転や教育などにも役立ったと考えている。ただし、FreedomBridge一橋の完成では、こうした努力は無に帰すと思われ、日本政府による無償援助工事の継続や社会発展のために助言活動などを行う必要があると考える。