5月2013

5月の月例会=報告

5月例会
平成25年5月19日

「フィルムを題材にした写真展の意味~小林新一の仕事から~」
新潟市歴史博物館学芸員 木村一貫氏

〈講演要旨〉
 今回の当館「報じられなかった写真展」は小林新一の写真とともにフィルムを展示してみよう、そのフィルムも見てほしいということに力点をおいた。それはフィルムそのものを展示することにより、報道写真家としての小林の動きをとらえることができるのではないのか、という考えからである。
 たとえば「アサヒグラフ」に掲載された松之山町の地すべりを取材した写真について、そのコマの前後を調べてみると、写っている男性のポーズが一定であることがわかる。おそらくより迫力のあるところを撮るためのある種の演出があったのではなかろうか。また、北朝鮮帰還船を取材したフィルムを見ると、見送りに来た一人の女子をずっと追いかけながら撮っていたことがわかる。この女子がバスを降りた時から、おそらく小林は「泣くだろう」と予測しながら勘を働かせながら撮っていたのであろう。
 新潟地震後、バスの中で子供が遊んでいる写真は子供の表情が非常によく、苦しんでいる家族とは思われない私たちに力を与えてくれる写真になっている。フィルムを見ると「アサヒグラフ」の編集者が選んだ一枚であり、小林は違う写真を選んでいた。写真家が何らかの意図をもって撮影する、その中から何枚かを選ぶ、さらに編集者が選ぶ、そして選ばれた一枚の写真が存在する。写真が選ばれていく過程もフィルム全体を見ることによって知ることができるのではなかろうか。
 フィルムは作品でなく、収蔵することはほとんど行われていない。リスクも大きい。しかし、当館では小林の4,000本以上になるであろうフィルムを、7か月間かけてスキャンニングした。今後の保存状態がどのようになるのか不明の部分もあるが、フィルムも含めた丸ごとの小林の写真を十分に見ていただければありがたい。

 講演終了後、木村氏の解説により写真展を観賞した。