2月の例会=報告

2月例会
令和3年2月20日(土)

「蘇民将来信仰」と「白山神社茅の輪神事・粽お守り」について
新潟郷土史研究会事務局長 高橋邦比古 氏

<講演要旨>
 古代・中世は災害や飢餓、疫病などが日常的に発生していた時代であった。そのため人々は不可思議な力を持ったものにすがり、外部からやってくる悪魔や悪霊を遮断するため、お札や護符に信仰を寄せた。その代表的な例が「備後国風土記逸文」に由来する「蘇民将来」や「茅の輪」の信仰であろう。
 「蘇民将来の子孫」と口で唱えたり、それを文字に記すことにより、また「茅の輪」を身につけたり、くぐったりすることにより魔除け、疫病除けに効果があると考え、その信仰は全国に広がった。
 新潟市南区の馬場屋敷遺跡(旧白根市庄瀬)から「蘇民将来子孫」と記された中世期の木簡が出土している。別の木簡にも「蘇民将来子孫」の文字とともに梵字や呪文が記されており、中世の頃より新潟市周辺に蘇民将来信仰が広がっていたことがわかる。同様に阿賀野市の腰廻遺跡(旧笹神村)からも「蘇民将来」や「南無(无)牛頭天王」と記された木簡が出土しており、蘇民将来信仰とともに牛頭天王信仰も広がっていたことがわかる。
 この牛頭天王は、もとはインドの祇園精舎の守護神で、のちに除疫神として京都の祇園社(八坂神社)などで祓われた神である。毎年行われている祇園祭はとくに有名で、悪疫を封じ込めるために行われたのが起源である。長刀鉾を先頭にした鉾9台・山14台の「山鉾巡行」は祇園祭のハイライトになっている。
 蘇民将来信仰と同様に茅の輪くぐりも全国に広がっている信仰の一つである。新潟市中央区の白山神社では毎年6月晦日、「茅の輪くぐり」あるいは「夏越の祓い」とよんでいる神事を行っている。直径4m程の茅の輪を左回り、右回り、左回りと3回くぐる神事であるが、茅の輪をくぐれば気を祓い身を守るという信仰である。輪をくぐった参拝者には直径10㎝程の「茅の輪」が配布されている。
 同神社には「粽お守り」も作られている。茅(チガヤ)は罪けがれを祓う力があるとされ、その茅を円錐状にして粽を作り、それをお守りとして玄関などに懸け災いを避けるという信仰である。
 新潟市関屋地区をはじめ各地で白山神社門札や金刀比羅神社(宮)門札、善宝寺(山形県鶴岡市)お札などが貼られている家を見ることができる。今日のように近代的な科学万能の社会になっても、お札や護符に対する信仰は生き続けていくように思われる。